#ふりかえりカンファレンス 2023で、ラボ構築についてお話ししました

登壇しました

retrospective.connpass.com

以前このブログにも書いた「石狩ラボ構築プロジェクト」についてお話ししてきました。

発表資料はこちら。

speakerdeck.com

今回のふりかえりカンファレンスのテーマは「ふりかえりに味変を」でした。

2021年でホップ、2022年でステップ、ときて、2023年でジャンプ、といった具合でしょうか。 守破離でいうと破のフェーズのテーマになります。

ふりかえりカンファレンスのふりかえりと、2023年度開催のお知らせ - ふりかえり実践会

ソフトウェア開発の文脈で語られることの多い「ふりかえり」をインフラ構築プロジェクトに適用してみた事例として、味変というよりは、白米をいつものお茶碗と違う器に盛ってみた、みたいなおはなしができたのかなと思います。

登壇の経緯

RSGT2023 に参加して、「もっと行動し、発信していきたい」と思った勢いで、プロポーザル受付中だったこのカンファレンスにプロポーザルを出しました。

ちょうど石狩ラボプロジェクトにふりかえりを導入してチームが良くなってきていた頃だったので、ふりかえりカンファレンスにぴったりな話ができるはずと思って書きました。

プロポーザル採択の連絡をいただいたのが3月頭。

プロジェクトとしては、最初の構築作業でうまくいかず、年度内のリカバリを目指して頑張っている時期でした。

4月頭に登壇することになったので、登壇時にカッコつけたい気持もあり、3月中のリカバリ成功への思いが強くなりました。

自分に(メンバーにも?)プレッシャーをかけながら準備して、結果3月末のリカバリを成功させることができました。

発表の中でこの話をしたところ、「そこでプレッシャーかけてもちゃんと成功するだけの土台ができてたのか。すごい」とコメントいただけて嬉しかったです。

登壇では無事に「リカバリ成功しました」というおはなしができたので、構築作業自体の成功と合わせて二度おいしい経験となりました。

登壇駆動でのプロジェクト推進、みなさんにもオススメです!

お話しした内容

石狩ラボ構築プロジェクトについては以前このブログに記事を書いたことがあります。

これらは、去年12月、初回の構築作業に失敗し、初めてふりかえりを行った直後に書かれました。

今回の発表では初回構築とふりかえりまでの経緯と、ふりかえりの後チームがどう変わっていったのかをお話ししました。

発表資料に沿った内容の紹介は長くなるので記事の最後、「続きを読む」以降に書きました。詳細はそちらをご覧ください。

すごくざっくり書くと、以下のような内容でした。

  • ふりかえりをやったおかげで初回構築失敗のリカバリに向けてやることが明確になったし、チームの雰囲気もよくなり、プロジェクトの進みがよくなった
  • 結果、3月末に構築のリカバリに成功した!
  • インフラ構築にもふりかえりは有効だとわかった
  • チームビルディングが大事、ふりかえりが大事、というあたりまえのことが大事だとわかった
  • 知識や技術をつけるにも、プロジェクト推進のスキルを上達させるにも、失敗の経験が大事
  • 失敗からリカバリさせようというモチベーションのためには、チームで悔しいという感情を共有することも大事

登壇内容についてのふりかえり

インフラ構築にふりかえりを導入できた要素はなんだったのか

カンファレンスのふりかえり*1の中でフーリーから「インフラ系ってふりかえりの文化が浸透していないように感じる、そこにふりかえりを導入できたのはなんでだろう」というコメントがありました。

これには以下のような要素があるかなと思います。

  • 私が「ふりかえりはどんなプロジェクトでもやるものだ」と思っていたこと
  • 構築作業という、わかりやすい区切りがあったこと
  • チームメンバーが失敗の経験と、悔しい気持を共有していたこと

上の2点によってふりかえりが提案され、下の1点によって、それがチームに受け入れられたのかなと思います。

また、その後ふりかえりの効果をチームが感じられたことによって、毎週の習慣・文化として浸透していったと感じています。

失敗を共有したチームは活性化されるのか

発表の中で「失敗の経験を共有していることが大事だ」という話をしました。

社内でレビューしてもらったときにチームメイトが「チームが停滞している気配を感じたときはあえて成功率の低いイベントを設けて失敗を共有するのもいいのかもしれない」と言っていました。

これを見て、ただ失敗するだけではチームは活性化されなさそうだなあ、他の要素が必要そうだけど、なんだろう、と考えていました。

失敗したあとに「悔しい」「挽回するぞ」という感情?「次はやれるはず」という自信?「会社のお金と時間を使って失敗したままにはできない」という意識?などと考え、議論してみたけど、答えが出ないまま発表に臨みました。

カンファレンスでは、内海さん@utsumit が「チームの状態を「即興性」の視点からふりかえってみよう~素早く学習できるチームになるために~」という発表をされていました。

インプロバイザー(人やチームの「即興性」を引き出す人)として活躍されている内海さんが、即興性の3要素を「自発性」「利他性」「挑戦性」として、挑戦性を高めるには失敗が大事だとお話しされていました。

失敗ならなんでもいいというわけではなく、大事なのは安全に失敗できる領域をつくること、実際にチャレンジすること、そして失敗を素早くオープンにすることだそうです。

これを聞いて、チームの活性化に必要な失敗以外の要素は、その失敗がコントロールされたものであることなのかも、と、納得しました。

もちろん仕事をしていく上ではコントロールできない失敗もたくさんありますが、チームを活性化させるためには、コントロールされた失敗を利用するのがよさそうです。

そして、この石狩ラボはコントロールされた失敗をするための場として作っているのだったな、と、思い出させてもらいました。

内海さんの発表の中で挑戦性のお話はほんの一部でした。全体はぜひこちらを見てみてください。

チームの状態を「即興性」の視点からふりかえってみよう - Speaker Deck

楽しかった!

まる一日ふりかえりについて語りつづける、とっても楽しいカンファレンスでした。

ソフトウェアを作っているエンジニアや PdM, PjM などが多かったであろうカンファレンスに、BBSakura が取り組んでいるインフラ構築の話、ネットワークの話を持ち込めたのも、ふりかえりってソフトウェア開発のためだけのものではないという意味で、良かったなと思います。

そして、今後も「コントロールされた失敗をできる場」であるラボを拡張し活用していきたいとあらためて思いました。

ふりかえりカンファレンス、参加者向けにアーカイブ動画か公開される予定だそうです。

参加者と一緒なら他の方も視聴してよいそうなので、参加者を見つけて、公開されたら一緒に見せてと誘ってみてください。

石狩ラボ構築プロジェクトのその後 - 発表内容後半の内容ご紹介

ここからは、以前石狩ラボ構築プロジェクトについて書いた記事の続きも兼ねて、発表資料の後半の内容をご紹介します。

前半の内容は以前の記事に書かれている内容と重複するので、上に貼った2つの記事を読んでいただけるとうれしいです。

初回構築後、ふりかえりを終えて

スライドのスクリーンショット。内容は以下に記載
ふりかえりをやってみて

初回構築に失敗したあと、プロジェクト始動から半年以上経ったタイミングでこのチームで初めてふりかえりをしました。

やってみると、リカバリの構築までにすべきことが明確になり、チームやプロジェクト運営の問題点がわかって改善策がたくさん出てきました。

ふりかえりという、意見を言うための場をあらためて設定することで、ふだん定例会ではなかなか言えなかったことを言い、話し合う機会になりました。

なぜこのタイミングまでふりかえりをやれなかったのか考えたときに出た仮説が以下の3つです。

  • チームビルドできていなかったから
  • ここまででこれを達成した、という明確な区切りがなかったこと
  • (1週間スプリントを回していたので1週間ごとにふりかえりをすればいいとも思うのですが)メンバーそれぞれ業務と並行してあまり時間を使えない中でやっているサブプロジェクトでは、1週間というタイムボックスは短かすぎたのかもしれない

スライドのスクリーンショット。内容は以下に記載
ふりかえり後

ふりかえり後、リカバリの構築に向けて動きだします。

すぐにアクションにうつせるものはうつしましたが、ここでは2点だけ取り上げて書きます。

  1. メンバーそれぞれの、プロジェクトに対する気持を聞いた

    ふりかえり会の中であるメンバーが「業務と並行しながら隙間時間を使って、自分にとって新しいことを勉強しながらプロジェクト推進していくのは思っていたより負荷が高くてつらかった。プロジェクトを抜けようかなと、ポジティブなだけではない気持がある。他のメンバーがどんな気持・モチベーション・目的でこのプロジェクトに参加しているのか聞きたい」と話してくれました。

    これを受けて行ったのがこのアクションです。メンバーそれぞれ内省する機会になり、以下のような発言が出ました(紹介するのは出た意見の一部のみです)。

    • ネットワークの知識をつけたい、社内のネットワーク詳しい人たちの会話についていけるようになりたい
    • 実験環境はほしいので、作りたい
    • プロジェクトの推進をやってみたい
    • すでにある環境をさわるのではなく、設計からやってみたい
    • おもしろいことをやりたい

    メンバーそれぞれのモチベーションを共有することで、お互いの期待値のコントロールにもつながる、良い時間でした。

  2. 一人でやりますと言えないタスクを複数人でやるようにした やりきれる自信がなかったり、時間が取れるかどうかわからなかったりで、一人で「このタスクやります」と挙手できないという問題がありました。

    知識の共有や、やってみたいタスクが被ったときの対策を目的として、複数人で一緒に取り組むというのをアクションとしました。

    モブプログラミングみたいに、通話したり画面共有したりしながらネットワーク機器のコンフィグを作ったり、検証内容を考えたりしました。

    モブプロの効果としてあちこちで言われている通りではありますが、わからない部分を教えあいながら進められるので一人で取り組むより早いし、メンバー間で知識を共有できています。

    また、サブプロジェクトだからこその利点として、本業が忙しいなどでしばらくプロジェクトから離れていても状況や背景の共有をしながら取り組めるので追い付きやすくなるというのもありました。

スライドのスクリーンショット。内容は以下に記載
ふりかえり後、リカバリ構築へ

上記のようなアクションを経て、ふりかえりやってよかった、効果が出ている、という認識がチームで共有されていきました。

このタイミングで、ふりかえりを毎週取り入れてみようと提案し、週1回1時間の定例会の最後5分にふりかえりをやってみることにしました。

定例会議事録に同時編集で「よかったこと」「課題だと感じてること」を記載していきます。リアルタイムに反応したりコメントしたり、音声で会話したりしながらふりかえりします。

「これが遅れています」「ここがわからなくて困っています」という課題が記載され、それに対して「手伝います」「一緒にやりましょう」という反応が生まれて、チームの雰囲気も良くなっているし進みも良くなっているように感じています。

その後はリカバリに向けてふりかえりで出た課題に対応するようにタスクを作って進めていき、3月末、無事にリカバリ構築を成功させることができました。

当初目標に置いていたところを達成できたし、時間が余ったら実験しようと予定していた手順まで実施することができました。

石狩ラボは、無事にラボとして稼動するところまで来ました。

ふりかえりのその後、プロジェクトをさらに進めてみて

スライドのスクリーンショット。内容は以下に記載
あらためて、ふりかえりを経て進めてみて

ふりかえりを経てプロジェクトをさらに進めてみてわかったことは以下です。

  • インフラ構築にもふりかえりは有効 ソフトウェア開発で行われる「ふりかえり」は、インフラ構築という違う分野でも効果を発揮してくれることがわかりました。

  • あたりまえのことがやっぱりだいじ

    • チームビルドがだいじ

      リモートワークで働いていて、このチームは、初回の構築までチームとして集まったことがありませんでした。

      構築のときに顔を合わせて集まったこと、集まって、構築という一つのコトにチームとして向いあったことで、ようやく関係性ができはじめたと感じました。

    • ふりかえりの場がだいじ

      意見を言いあうための場をあらためて設定することで、それまで言えなかったことを言うことができました。

      構築のときに顔を合わせてできはじめた関係性を、ふりかえりの時間によって、さらに深められました。

    • 時間を割けないサブプロジェクトだからこそ短いスパンでのふりかえりがだいじ。経験がない領域で試行錯誤している状況ではとくにそう。

      初回構築後までふりかえりを実施できなかった原因として、「メンバーそれぞれ業務と並行してあまり時間を使えない中でやっているサブプロジェクトでは、1週間というタイムボックスは短かすぎたのかもしれない」という仮説を挙げました。

      でもそうではなくて、週1時間の定例以外は非同期で動いている、しかも経験や知識の少ない領域について調べながら進めている状況では、短いスパンで状況共有して方向性を合わせていかないと、やっていることがどんどんズレていってしまうということがわかりました。

    • 失敗の経験を共有するのもだいじ うまくいかなかった経験、悔しい気持を共有しているからこそ改善へのモチベーションが高くなります。

      初回構築に失敗したあと、BBSakura テックリード@higebu から「スッとつながらなくてよかったですね」とコメントをもらいました。

      準備が足りなかったしよくわかっていないけどなんとなくつながってしまうのではなく、わからないから本当につながらなかった、というのを経験したからこそ、ネットワークの知識・技術も、プロジェクト推進のスキルも、向上することができました。

      そしてその失敗の経験と、悔しいという感情を共有していることが、チームとしてふりかえって改善につなげたいというモチベーションになります。

石狩ラボと、ラボ構築プロジェクトの今後

スライドのスクリーンショット。内容は以下に記載
俺たちの戦いはこれからだ!

初回構築のリカバリは完了しましたが、ラボとして利用され、拡張されていくのはこれからです。

いまは仮のスイッチ*2が入っている状態なので、それを脱してホワイトボックススイッチを導入したいと検討を始めています。

新年度になったので、新しいメンバーも募集しています。

私が所属しているモバイル開発チームで、プロダクトを作るための実験を石狩ラボでやる予定もあります。ラボ利用第1号です。

石狩ラボ構築プロジェクトとしてはまだまだこれからも新しいメンバーで、新しい状況で試行錯誤を続けます。引き続きふりかえりを繰り返して、チームを・プロジェクトを・ラボを、良くしつづけていきたいと思っています。

それから、ふりかえりしつづけること・ふりかえったことを自分たちのパタンランゲージとしてチームや組織に浸透させていくことをあわせてやっていける人を増やしていくための働きかけも、同時にしていきたいなあと思います。

*1:ふりかえりカンファレンスの最後にはカンファレンス自体のふりかえりがあります。カンファレンスのキャラクター(?)「フーリー」と「カエリー」が各セッションの内容をふりかえる時間です。

*2:これ、私が数年前に夫から「ネットワークの勉強しなさい」ということで誕生日プレゼントとしてもらったものでした