こちらはBBSakura Networksアドベントカレンダー2025 6日目の記事です。
こんにちは。BBSakura Networksでソフトウェアエンジニアをやっている楽野です。本記事では、2G / 3G 等の電話網を支えてきた「SS7(Signaling System No.7)」について基本から調べた内容を、自分なりに整理して紹介しています。
SS7 概要
・ SS7 とはなにか?
SS7 は、Common Channel Signaling System No.7 とも呼ばれる共通線信号方式の一種で、電話網(PSTN / 2G / 3G)で使われるシグナリングプロトコル体系です。 音声通話やSMSの接続制御、番号案内、加入者位置情報の更新、課金などの多くの機能が SS7 によって動いています。
・ 共通線信号方式と SS7
アナログ電話時代ではチャネル関連方式(Channel Associated Signaling)と呼ばれる方式が用いられていました。この方式では音声を流す通話用の回線上に通話制御の信号(発信・着信・切断など)も一緒に流す仕組みになっており、
- 回線がふさがりやすい
- 制御情報を柔軟に扱えない
- 高度なサービス(転送、ローミング、SMS など)が実現しにくい
と言った弱点がありました。そこで通話とは別の専用データ経路(シグナリングリンク)を設けて、音声とは独立して制御信号だけを集中管理する方式が考案されました。これが共通線信号方式となります。この方式を元に制御信号の構造・ルーティング・サービス機能までを包括的に標準化したのが SS7 となります。
SS7 の全体像:OSI 風の多層アーキテクチャ
SS7 は OSI 参照モデルに近い階層構造を持ちます。

・ MTP(Message Transfer Part)
SS7 の伝送層にあたる部分です。ユーザ部から渡された信号メッセージをSS7網経由で所要の宛先(信号局)へ伝送する役割を持ちます。 MTPは Level1、Level2、Level3 の3つの機能レベルに分かれています。
MTP Level1(信号データリンク部)
Level1 では伝送路条件を合わせるため、信号データリンクの電気信号・物理回線、機械的特性などを規定しています。信号データリンクは双方向の信号伝送路で同一速度の2つのデータチャネルで構成されています。
MTP Level2(信号リンク機能部)
Level2 は相手信号局との間の信号データリンク上で誤りのない信号メッセージの転送を行う役割を担っています。それぞれの信号データリンク上での信号ユニットの送受信、フロー制御、誤り検出や信号リンク監視などの機能を持ちます。
MTP Level3(信号網機能部)
Level3 はSS7ネットワークにおける「ルーティング」と「ネットワーク管理」を担当する層です。OSIモデルでいうと「ネットワーク層(L3)」に相当します。 以下の3つの主要な役割を持ちます。
1. ルーティング
MTP3 は SS7 メッセージの宛先である Point Code(交換局番号) を見て、どの経路に流すかを決めます。
- どの STP(Signal Transfer Point)へ送るか
- どのリンクセットを使うか
- リンクが落ちたらどこに迂回するか
といった経路制御を担っています。
2. ネットワーク管理
リンクや交換局の状態を監視し、問題が起きたら他の経路へ切り替えるなどの機能です。 MTP3 のネットワーク管理には以下の機能が含まれます。
- リンクセットの状態監視(SLM:Signaling Link Management)
- 例: リンクが落ちたとき通知を全装置に広報
- 経路管理(SRM:Signal Route Management)
- 例: 迂回ルートが必要になった場合、経路を切り替える
- トラフィック制御(STM:Signaling Traffic Management)
- 例: 輻輳が発生した場合に低優先度メッセージを抑制
といった動作を自動で行います。
3. メッセージの優先順位制御
MTP3 ではメッセージに「優先度」が付いており、高優先度のメッセージは輻輳時でも優先的に流されます。
例:
- MTP 管理メッセージ(最優先)
- MAP/TCAP(中程度)
- 大量のSMS 関連メッセージ(低優先度)
この仕組みによって、ネットワークの混雑時でも重要な制御が止まらないように設計されています。
・ SCCP(Signalling Connection Control Part)
SCCP はユーザ部(ISUP・MAP・INAP などのアプリケーション層)に「ネットワーク機能」を提供するレイヤで、MTP3 より高度なアドレス機能や接続管理を追加する層です。 メッセージ転送部とユーザ部の中間層に位置付けられています。
主に次の機能を提供します。
- Global Title(GT:電話番号のような論理アドレス)
- ルーティング制御
- トランザクション型通信(コネクションレス/コネクション型)
この SCCP の上に、次の MAP が乗ります。
・ MAP(Mobile Application Part)
携帯通信に特化したアプリケーション層が MAP です。 HLR / VLR / AUC / SMSC などの信号が MAP によって流れます。
以下は MAP メッセージの例です。
- UpdateLocation(位置登録)
- SendAuthenticationInfo(認証ベクトル)
- InsertSubscriberData(加入者データ更新)
- ProvideSubscriberInfo(端末情報取得)
- SendRoutingInfoForSM(SMS ルーティング)
MAP は 3GPP 29.002 に相当します。
・ TCAP(Transaction Capabilities Application Part)
SS7 のアプリケーション層でトランザクション(要求と応答のやり取り)を扱うためのプロトコル層です。 MAP などの上位アプリケーションが動くための土台として使われています。
具体的には
- HLR に加入者の位置情報を問い合わせる
- 認証ベクトルを取得する
- SMS 配送のための宛先を問い合わせる
- 番号案内や課金情報を取得する
といった処理を独立したトランザクションとして開始・継続・終了させる役目があります。
・ ISUP / TUP(音声呼制御)
ISUP(ISDN User Part) は「音声通話の開始・接続・切断」を制御するためのプロトコルで、いわゆる 回線交換(CS)通話のシグナリングを担います。 音声通話の呼設定を行うプロトコルです。
以下は ISUP のメッセージ例です。
- IAM:通話開始
- ACM/ANM:着信通知・通話確立
- REL/RLC:切断
固定電話・2G/3G のCS ドメインで利用されます。
TUP(Telephone User Part)は ISUP 以前に使用されていた呼制御プロトコルです。
SS7 のネットワーク構成
次にネットワークの構成についてみていきます。 SS7 ネットワークは大きく分けて、信号局と信号リンクから構成されます。
信号局
SS7 の処理機能を持つノードを信号局と呼びます。信号局の例としては、交換機・ネットワークサービス制御局・信号局などがあり、各信号局にはそれぞれを一意に識別できる信号局コード(Point Code)が付与されています。 信号局は大きく以下の3種類に分類されます。
- SSP(Service Switching Point)
- STP(Signal Transfer Point)
- SCP(Service Control Point)
・ SSP(Service Switching Point)
交換機(スイッチ)に相当する信号局です。ISUPを利用して音声呼の制御、MAP を利用して HLR への問い合わせ(位置更新、認証)などを行います。
携帯電話網では
- MSC(Mobile Switching Center)
- GMSC(Gateway MSC)
に相当します。
・ STP(Signal Transfer Point)
SS7 のルータ(中継交換機)に相当する信号局です。信号を運ぶことに特化したノードで、STP 自体は呼制御や加入者管理などの機能は持ちません。
以下の役割を担います。
- MTP3 によるメッセージのルーティング
- SCCP の Global Title Translation(GTT)
- 輻輳制御、障害時の迂回
- 事業者境界でのフィルタリング(セキュリティ)
・ SCP(Service Control Point)
サービスロジックやデータベースを保持する信号局です。SCP に分類される装置は業務によって複数あり、携帯電話網では以下が相当します。 またこれらのノードはSTPを介して相互接続されます。
- HLR(Home Location Register)
- VLR(Visitor Location Register)
- AUC(Authentication Center)
- SMSC(SMS Center)
- EIR(端末機器IDデータベース)

信号リンク
信号局を相互に接続する信号回線(データリンク)を信号リンクと呼び、複数のリンクタイプ(A・B・C・D・E・F)が存在します。
- Aリンク(Access Link)
- SSP/SCP と STP をつなぐアクセス回線
- 端末が STP に参加するための入口リンク
- Bリンク(Bridge Link)
- STP と STP をつなぐ中継回線
- SS7 網のバックボーンに相当
- Cリンク(Cross Link)
- STP ペア同士をつなぐ冗長リンク
- Dリンク(Diagonal Link)
- 異なる STP ペアを斜めに接続するリンク
- 障害時の迂回経路を拡充し、ネットワークの信頼性を高める
- E/Fリンク
- 事業者間接続(国際接続など)、他社 STP との相互接続
回線方式
SS7 の物理層(MTP1)は、回線として長らくE1/T1を使っていました。 E1/T1 はデジタル信号伝送のために使われるPDH(Plesiochronous Digital Hierarchy)と呼ばれる時分割多重での回線方式です。
- T1:北米・日本で採用(1.544 Mbps)
- E1:欧州・国際規格で採用(2.048 Mbps)
SS7 の信号(シグナリングリンク)は E1 / T1 のうち 1 つの 64kbps チャネルを専有します。
SS7 の IP 化
・ SIGTRAN の登場
当初SS7は回線としてT1/E1を利用していましたが、回線交換からパケット交換への転換などに伴い IP ネットワーク上で SS7 信号を扱う必要性が高まりました。
そこでIPネットワーク上で SS7 信号を転送するためのプロトコルとして SIGTRAN (Signaling Transport over IP)が導入されました。
・ SIGTRAN のプロトコル構成:
| 従来の SS7(TDM) | SIGTRAN(IP 上 SS7) | 役割 |
|---|---|---|
| MAP(TCAP) | そのまま(M3UA/SUA の上で動作) | 携帯網の制御 |
| ISUP | IUA | 呼制御(ISDN / SS7) |
| SCCP | SUA(SCCP User Adaptation) | アドレス指定と配送 |
| MTP3(ネットワーク層) | M3UA(MTP3 User Adaptation) | ルーティング/ネットワーク管理 |
| MTP2(リンク層) | SCTP | 信頼性のある伝送 |
| MTP1(物理) | IP / Ethernet | 物理伝送 |
MAP/TCAP といった上位層は変わらず、下位層だけが IP ベースに置き換わる構造となっています。
まとめ
今回、3G や SMS の仕組みを調べている中で度々目にして気になっていた SS7 や SIGTRAN というワードを改めてまとめてみました。 直接の業務に結びつかないように見える技術であっても、その成り立ちや背景を知ることで、いま扱っている仕組みへの理解が深まることもあるかと思います。 また、歴史を辿ることで「なぜ今の技術がこのような形になっているのか」を想像できるようになり、日々の設計や議論に新しい視点が得られるヒントになるとよいな、と感じました。
Merry Christmas